取材ノート
「JAアワーより」
~認知症を知って、少しでもラクな接し方を見つけよう~
JAグリーン長野 生活課 大日方瑞穂さん
今月のJAアワーは『認知症を知って、少しでもラクな接し方を見つけよう』をテーマにお話します。
2025年には、65歳以上の約5人に1人がなるといわれる認知症。人が変わったように怒りっぽくなった、目を離したすきに1人で出かけて迷子になったなど、ケアをする家族の悩みは尽きません。しかし、攻撃性や徘徊といった症状は、本人の気持ちを想像し、行動の理由を知ることで緩和することができます。『認知症の本人の気持ち』をキーワードに、本人も家族もラクになる接し方を見つけてみましょう。
認知症を理解していくには、まず家族や周りの方が認知症についてよく勉強する必要があります。なぜならそれが、皆さんの困りごとや悩みを解決する糸口になるからです。
認知症の原因は数多くありますが、次の三つの条件がそろったときに『認知症』と診断されます。一つ目に脳の疾患です。脳の萎縮、脳の血管の詰まり、出血などの異変がみられたときのことです。二つ目に認知機能の低下です。物忘れが増える、時間や場所、人がわからなくなることです。三つ目に生活機能の低下です。先ほどの脳の疾患や認知機能の低下が起こった結果、運転や料理などができなくなり、生活に支障が出ることです。この三つの条件から、生活に支障が出るようになって初めて『認知症』と診断されるのです。
認知症により現れる症状は人それぞれですが、大きく二つに分けられます。一つ目は、物忘れや、時間・場所・人が分からなくなる『中核症状』。二つ目が中核症状に伴って生じる『行動・心理症状』です。
認知症の方が身近にいる方の困りごとで多いのは、暴力や暴言、徘徊、物を盗られたなどの妄想といった『行動・心理症状』の悩みが多いようです。実は、介護する家族や周りの人の反応が、そのような行動・心理症状の一因になっています。『そうじゃないでしょ』と否定をする、『ほんとうなの?』と疑う、『〇〇しないとだめ』と強制する、『いいかげんにして』と叱る、また聞かれても無視をするといった反応を家族がとり続けることで、認知症の人の不安が増し、精神的に不安定になることが、行動・心理症状を引き起こします。つまり、家族が本人の不安な気持ちを理解せず、増幅させる接し方をしているから、困りごとが起こっているとも言えます。
物忘れや時間や場所がわからなくなるなどの中核症状は、生活上の支障をそれとなく補い、不安な気持ちに寄り添うことで少なくすることができます。
次に認知症の人の行動の理由と、対応のコツをご紹介します。認知症の人の行動にはすべて理由があります。それが、認知症と本人の気持ちを理解するカギです。アルツハイマー型認知症によく見られる例を2つ解説します。
一つ目に『同じことを何度も繰り返し言う』です。アルツハイマー型認知症の初期に多く見られる症状に『記憶障害』があります。人は物を覚えるとき、3つのステップを踏んでいます。1.物事を覚える、2.脳の中に情報を保つ、3.思い出す、の3つです。しかし、認知症になると、最初の『物事を覚える』ができなくなります。特に数分~10分前の直近の出来事ほど覚えられなくなるため、自分で言ったことを『覚えられない』のです。何度も同じことを言うのは、それが本人にとって気になることだからです。『さっきも言ったでしょ!』などと感情的に答えがちですが、本人は悲しみや怒りなどの強い感情を伴う記憶は残るため、拒絶された感情だけが残ります。何度聞かれても否定せず、『そうだね』など肯定的な相づちで、あるがままを受け入れる姿勢を示しましょう。
二つ目に『ぼんやりして、家に引きこもりがち』になることです。楽しんでいた趣味に興味を示さない。人付き合いを避けるようになった。認知症の初期には、こうした『意欲の低下』が多くみられます。私たちの脳は日ごろ、外の世界の情報を一時的に記憶し、過去の記憶と照らし合わせて、多くの情報処理をしています。しかし認知症になると、一度に処理できる情報量が少なくなります。相手の出方を見て様々な情報を整理する囲碁のような競技や、複数の人との会話は負担になります。本人には『できなかった』『おもしろくない』と嫌な感情が残るため、自尊心が傷つきます。
家族にできることは、ウォーキングや植物の世話など、本人が今無理なくできることを探してみてください。認知症の人は『できないことをさせられる』ことをとても嫌がります。励ますつもりで無理やり外に連れ出すと、逆効果になることもあります。無理のない範囲でできることを一緒に探してみましょう。
認知症の人に接するときは、本人の気持ちをわかろうと、本人と真剣に寄り添うようにしましょう。また、表情や態度から気持ちをキャッチすることもできます。できることはお願いして『ありがとう』と心から感謝を伝えましょう。本人の好きな事や興味を大切にして、できるだけ外に出かけましょう。介護する側は一人で抱え込まず、近所の人や友人、親戚に家族が認知症であることをオープンにして、協力をお願いすることも大切です。
認知症は誰もがなりうるものです。家族や身近な人が認知症になることなどを含め、多くの人にとって身近なものとなっていきましょう。